ヨガと聞くとポーズ(アーサナ)をイメージする方がほとんどかもしれません。しかし実は、ポーズはヨガ全体のわずか8分の1にすぎないのをご存じでしょうか。
ヨガの本質は「生き方そのもの」にあります。約2500年前に聖人パタンジャリが著した「ヨーガ・スートラ」には、ヨガの実践を8つのステップにまとめた「八支則(アシュタンガ)」が記されています。サンスクリット語で「アシュタ」は数字の8、「アンガ」は枝やステップを意味します。
この8つのステップは、日常の生き方から最終的な悟りに至るまでの道筋を示したもの。難しそうに感じるかもしれませんが、実は日常生活にすぐ活かせるヒントがたくさん詰まっています。この記事では、八支則の全体像から日常での活かし方まで、わかりやすく解説していきます。

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八支則って何?ヨガは「ポーズ」だけじゃない
八支則は、ヨーガ・スートラの中でパタンジャリが体系化したヨガの実践を8つの段階に分けた教えです。この8つのステップは、下から順番に積み上げていくイメージで構成されています。第1・第2段階が土台であり、ここがしっかりしていないと上の段階には進めないとされています。
現代のヨガスタジオで行われているポーズの練習は、実はこの8段階のうちの第3段階にあたるものです。つまりポーズの前に、まず「どう生きるか」という道徳的な土台を固めることが求められているのです。
この考え方を知るだけでも、ヨガに対する見方が大きく変わるのではないでしょうか。
八支則の全体像
八支則の全体像を表で確認してみましょう。
| 段階 | 名前 | 意味 | カテゴリ |
|---|---|---|---|
| 第1段階 | ヤマ | してはいけないこと(禁戒) | 道徳・倫理 |
| 第2段階 | ニヤマ | すべきこと(勧戒) | 道徳・倫理 |
| 第3段階 | アーサナ | ポーズ | 身体 |
| 第4段階 | プラーナーヤーマ | 呼吸法 | 呼吸 |
| 第5段階 | プラティヤハーラ | 感覚の制御 | 内面 |
| 第6段階 | ダーラナ | 集中 | 内面 |
| 第7段階 | ディヤーナ | 瞑想 | 内面 |
| 第8段階 | サマーディ | 悟り・三昧 | 究極の境地 |
第1〜2段階は「どう生きるか」という道徳的な教え、第3〜4段階は体と呼吸のコントロール、第5〜8段階は心の内面を深めていくステップという構成になっています。それぞれの段階がどのような教えなのか、一つずつ見ていきましょう。
第1段階:ヤマ(やらないこと)
ヤマは社会の中で守るべき5つの戒めです。簡単に言えば「人としてこれはやってはいけない」というルールであり、道徳の基本とも言える内容です。しかし改めて意識してみると、意外と奥が深い教えばかりです。
1. アヒムサー(非暴力)
暴力をふるわないという教えですが、身体的な暴力だけを指しているわけではありません。言葉の暴力や心の中の攻撃的な思いも含まれます。たとえばSNSで誰かを攻撃するような書き込みも、アヒムサーに反する行為です。
さらに大切なのは、自分自身に対する非暴力でもあるということ。「自分はダメだ」と過度に自分を責めることも、アヒムサーの観点からは避けるべきとされています。
日常での実践:人の悪口を言わない、自分自身を責めすぎない、SNSでの言葉遣いに気をつける
2. サティア(正直)
嘘をつかないという教えです。ただし、アヒムサー(非暴力)とセットで考えることが大切です。正直であっても、相手を傷つけるような言い方は望ましくありません。「正直に言う=何でも思ったことをストレートに言う」ではなく、思いやりを持った正直さが求められます。
日常での実践:自分の気持ちに正直に生きる、見栄を張らない、ごまかさない
3. アスティヤ(不盗)
盗まないという教えですが、物を盗むことはもちろん、人の時間・アイデア・エネルギーを奪わないことも含まれています。待ち合わせに遅刻して相手の時間を奪うことや、人の手柄を横取りすることもアスティヤに反する行為です。
日常での実践:約束の時間を守る、人の功績を正当に認める、相手の話をきちんと聞く

4. ブラフマチャリア(節制)
エネルギーを無駄にしないという教えです。もともとは禁欲を意味していましたが、現代では「何事もほどほどに、バランスを取る」という解釈が一般的です。食べすぎ、飲みすぎ、スマホの見すぎなど、エネルギーを浪費する行動を控えて、本当に大切なことにエネルギーを注ぐという考え方です。
日常での実践:暴飲暴食を避ける、SNSやスマホの使用時間を意識する、睡眠をしっかりとる
5. アパリグラハ(不貪)
必要以上のものを求めないという教えです。物質的な執着を手放すことを説いており、現代で言うミニマリズムに通じる考え方でもあります。「あの人がこれを持っているから自分も欲しい」という比較から生まれる欲望を手放すことも、アパリグラハの実践です。
日常での実践:不要な物を手放す、他人と比較して「もっと欲しい」と思わない、今あるものに意識を向ける
第2段階:ニヤマ(すべきこと)
ニヤマは自分自身に対する5つの心がけです。ヤマが「やらないこと」なら、ニヤマは「こうあるべき」という自己規律。自分の内面を磨いていくための教えです。
1. シャウチャ(清浄)
心身を清潔に保つという教えです。体を清潔にすることはもちろんですが、部屋の整理整頓や、心の中のネガティブな感情の整理も含まれます。散らかった部屋にいると心も散らかる、というのはよく言われることです。ヨガの前にシャワーを浴びたり、練習スペースをきれいにしたりすることもシャウチャの実践にあたります。
2. サントーシャ(知足)
今あるものに満足するという教えです。日本語でいう「足るを知る」の精神です。不平不満を抱えるのではなく、感謝の気持ちで日々を過ごすことが大切とされています。これは「向上心を捨てる」ということではなく、「今の自分の状況を受け入れながら成長していく」という姿勢のことです。
3. タパス(苦行・自己鍛錬)
自分を成長させるための努力をするという教えです。楽な道ばかり選ばず、あえて挑戦する姿勢がタパスです。毎朝早起きしてヨガをすること、苦手なポーズに取り組むこともタパスの一つです。ただし、無理をしすぎるのはアヒムサー(非暴力=自分を傷つけない)に反するため、バランスが重要です。
4. スヴァディヤーヤ(自己学習)
自分自身を観察し、学び続けるという教えです。経典を読むことも含みますが、「自分はなぜこう感じるのか?」「なぜイライラしたのか?」と内省することも大切な学びです。日記を書いたり、瞑想で自分の心を観察したりすることもスヴァディヤーヤの実践になります。
5. イーシュヴァラ・プラニダーナ(自在神への祈念)
自分を超えた大きなものに身を委ねるという教えです。宗教的な意味もありますが、現代では「コントロールできないことを受け入れる」「結果に執着しない」という心の姿勢として解釈されることが多くなっています。「やれることをやったら、あとは流れに任せる」という潔さとも言えます。

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第3〜8段階のポイント
ヤマとニヤマという土台ができたら、いよいよ体・呼吸・心の実践に入っていきます。
第3段階:アーサナ(ポーズ)
多くの方がなじみのあるヨガのポーズがこの段階です。しかし本来の目的は「瞑想のために安定して座れる体を作る」こと。健康やダイエットのためというのは、あくまでも現代の解釈です。ポーズを通じて体の柔軟性・筋力・バランスを養い、長時間の瞑想に耐えられる体を作るという位置づけになっています。
第4段階:プラーナーヤーマ(呼吸法)
呼吸のコントロールの教えです。「プラーナ」は生命エネルギー、「ヤーマ」はコントロールを意味します。呼吸を制御することで心も制御できるという考え方です。緊張したときに深呼吸すると落ち着くのは、まさにプラーナーヤーマの効果を日常で体感している瞬間と言えます。
第5段階:プラティヤハーラ(感覚の制御)
五感を内側に向ける練習です。外部の刺激(音・匂い・景色など)に振り回されず、自分の内面に意識を向けることが目的です。スマホの通知音が鳴っても反応しない、雑音の中でも集中できるようになる、というのがこの段階の目指すところです。
第6段階:ダーラナ(集中)
一つの対象に意識を集中させることです。ろうそくの炎を見つめたり、呼吸のリズムに集中したりする練習です。現代のマインドフルネスの原型とも言える教えです。
第7段階:ディヤーナ(瞑想)
集中が深まり、「集中している」という意識すら消える状態のこと。スポーツでいう「ゾーン状態」に近いイメージです。努力なく自然に集中が続いている状態を指します。
第8段階:サマーディ(悟り)
八支則の最終目標です。自分と対象の区別がなくなる究極の一体感に到達した状態です。日常生活でここに到達することはとても稀ですが、ヨガの最終ゴールとして示されています。
八支則を日常に取り入れるコツ
八支則を完璧に実践するのは、正直かなり難しいことです。しかし、少しずつ意識するだけで日常の過ごし方が変わっていきます。おすすめの取り入れ方を紹介します。
- 朝の感謝ワーク:朝起きたら「今日は何に感謝できるか?」と3つ考える(サントーシャの実践)
- 言葉を選ぶ:人の悪口や批判的な言葉が頭に浮かんだら「アヒムサー」を思い出す
- デジタルデトックス:SNSを見すぎそうになったら「ブラフマチャリア(節制)」を意識してスマホを一度置く
- 整理整頓:部屋が散らかったら「シャウチャ(清浄)」の実践として片付ける
- ポジティブな捉え直し:困難に直面したら「タパス(成長のチャンス)」として前向きに捉え直す
- 寝る前の振り返り:その日の行動を振り返って「自分はどう感じたか」を内省する(スヴァディヤーヤの実践)
全部を一度にやろうとする必要はありません。今週はアヒムサーを意識する、来週はサントーシャを意識する、というように一つずつ取り組んでみてください。

まとめ
八支則は約2500年前に書かれたものですが、現代の生き方にもしっかり応用できる知恵がたくさん詰まっています。ポーズだけがヨガではなく、生き方そのものがヨガなのです。
ヤマとニヤマという道徳的な土台から始まり、アーサナ・プラーナーヤーマで体と呼吸を整え、プラティヤハーラ・ダーラナ・ディヤーナで心を深め、最終的にサマーディへと至る。この壮大な道筋を知っているだけでも、ヨガの見方が変わるはずです。
すべてを完璧にやる必要はまったくありません。一つでも「今日はこれを意識してみよう」と思えたら、もうヨガの実践は始まっています。ぜひ気軽に取り入れてみてください。
ヨーガ・スートラの原典について詳しくは、全米ヨガアライアンスのリソースが参考になります。マインドフルネスと瞑想については、厚生労働省のe-ヘルスネット(www.e-healthnet.mhlw.go.jp・サイト終了)でも情報が公開されています。ヨガ哲学に関するプレゼンはTED Talksでも視聴できます。
※この記事の情報は記事執筆時点のものです。八支則の解釈には流派や指導者による違いがあります。
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